実習指導スキルインデクスは、ケアイノベーション協会が執筆しています。
増える未婚者、増えない同棲と婚外子
実務者研修教員講習会
北欧。フランス型と南欧型
晩婚化や未婚化に象徴される1970年代からの結婚スタイルの急速な変化は、日本ばかりでなく、スウェーデンやデンマークを含め、多くの先進諸国が経験してきた経緯である。ところが、統計上同じように晩婚化を経験している欧米諸国と異なり、日本では同棲カップルや婚外子の増加が見られないという歴然とした事実がある。日本の晩婚。未婚化は少子化に直結している。つまり、結婚外で生まれる子ども(婚外子)が非常に少ないため、現在の日本において「結婚が遅れる」あるいは「未婚の女性が増える」ということは、そのまま「出生率が低下する」ということにほぼ等しい。それだけに最近の未婚率の急上昇の社会的意味は非常に大きいのである。
欧州および先進地域の同棲と婚外子割合を見ると、いくつかのパターンが明らかになる(岩津、1999)。その1つは北欧。フランス型で、社会制度が進み、結婚外のパートナーシップも結婚と同等に支援され、婚外子差別はない。全出生に占める婚外子の割合は、スウェーデン、デンマークでほぼ50%、フランスも20%近い。また、これらの国々では、手厚い家族手当や柔軟な育休制度を備え、出生率の回復に成功している。
この逆が南欧型で、結婚は出産のため、さもなければ未婚のまま、つまりパートナーとは同棲せずというスタイルである。日本もこの型に属すると見られる。南欧型には北欧・フランス型と対・照的に、家族主義が強く社会制度の充実が遅れているイタリアやスペインなどが属する。筆者が以前イタリアに滞在していたとき、パートナーのいる若い男性研究者が、週末ごとに自分の洗濯物をもって、車で2時間の親元に通っている姿に驚いたことがあった。先に見た自立できない日本の若者と似たところを垣間見た気がした。もちろん、宗教や文化的な違いがあるので一概にはいえないが、家族主義の生んだ強い親子関係から自立した夫婦関係に移れない状況があるのかもしれない。いうまでもなく、日本、イタリア、スペインは、出生率の低下が今もって止まらず、問題をかかえる国々である。
婚外子が増えれば、出生率も上がるというような単純な図式は成り立たない。しかし、北欧やフランスの婚外子増加が、社会保障の充実と結婚・家族スタイルに対貧する寛容な志向によってもたらされたものであり、性や結婚に関する宗教や社会規範からの解放を象徴していると考えられないだろうか。
日本の同棲と非法律婚カップル
事実婚の動機
実際、日本の同棲、事実婚の実態はどうなっているのか。「出生動向調査」(1987~97)によると、欧米諸国に比べてかなり低いレベルではあるものの、男子が3.7%から5.5%に、女子が3.2%から5.8%に上昇したことがわかっている。この点について、善積(1997)は、男女各約300のアンケート調査とインタビュー調査を行い、興味深い結果を出している。
善積は、継続的に性関係がある男女を「非法律婚カップル」と呼び、その中にも、届け出をしていないだけで当事者に結婚しているという意識のある場合(事実婚)と、結婚しているという意識の全くない場合をあげている。彼らの非法律婚の選択の最も大きな動機は、「夫婦別姓を通すため」「戸籍制度に反対。(女性は9割近く、男性でも6割以上)、次に多い項目は、女性では「性関係はプライベートなことなので、国家に届ける必要を感じない」(7割)、「性役割分担から解放」(6割)と続く。一方、男性は「相手の非婚の生き方を尊重」となっている。そして彼らは、非法律婚カップルの利点として、現代の結婚に付随する戸籍制度や、男女の役割分業意識にとらわれない点、相手の「家」から解放され、「嫁」的役割を期待されず、距離をもって個人として交流できる点などをあげている。個人を尊重し、多様な家族のあり方を認めようとしている家族観が表れている。
高い男女平等志向
さらに注目したいのは、善積(1997)による法律婚カップル(1990年、神戸市の684組の夫婦)と、非法律婚カップルの家族を比較した生活実態についての研究である。非法律婚カップルは法律婚カップルに比べて男女平等志向が強く、女性は職業をもち、男性は家事。育児にかかわる割合が高い。たとえば家事の分担について、法律婚カップルは86%で「主として女性」がになっているのに対して、非法律婚カップルでは「主として女性」か「同じくらい」が半数強を占めた。
生活費の負担についても、法律婚カップルの90%が「主として男性」「どちらかというと男性」であったが、非法律婚カップルは、「同じくらい」が40%を占めている。また、家計分担のあり方も法律婚カップルより個別化の傾向が強い。「男は仕事、女は家事や育児」という性別役割分業観を超えて家庭生活を実践することは容易ではない。非法律婚の人たちは、時にはパートナーと喧嘩しながら、またストレスを感じながらも努力し、伝統的な性別役割分業形態にとらわれず、男女平等をめざし、自分たちの状況に応じた形の家事の遂行、家計の組織化を試みているのである。
非法律婚に法的な拘束力がないため、カップル関係の維持には、情緒的結びつきがきわめて重要な役割を果たしている。本人たちの自覚のもとに、日常性に流されずに親密さを維持していくという緊張感をもったカップルである。だからこそ、公平性と個人を尊重した関係が築けるのであろうか。男女平等志向で、個々が経済的に自立している非法律婚カップルの示すパートナーシップは、現在の日本が模索している結婚モデルの1つを示唆しているのかもしれない。
ピアマリッジ(peermarriage)
理想の結婚モデルを求めて
善積によって紹介された、従来の形態にとらわれず、平等かつ情緒的関係をもつ非法律婚カップルと非常によく似た結婚スタイルがアメリカで紹介されている。シュウォーツ(Schwartz,P.)のビア・マリッジ(peermarriage)である。ビアとはふつう同僚のことを意味するが、ここでいうビア。マリッジとは、平等な2人がお互いを深く理解しあった親密な結婚関係である。
この概念は、1983年に彼女がブルームステイン(Blumstein,P.)と行った、法律婚、同棲、同性・異性カップルすべてを含む大がかりな調査から生まれてきた。彼女は、同性カップルには平等で親密な関係が多く見られるのに、なぜ、異性カップルでは見られないのか、あるいは平等関係を保っているごくわずかな異性カップルは、いかにして伝統的なジェンダーを乗り越え、平等と公平さをベースとした関係を成り立たせることができるのか、とさらにインタビュー調査を進めた。先にあげた善積が指摘したように、非法律婚カップルが、「非」法律婚であるがゆえに男女の役割分業を乗り越えていたのと同様、「同」性力ツプルであるがゆえに平等主義的家族が築きやすい、という事実は非常に興味深い。
このような民主的結婚(democraticmarriage)は新しい概念ではない。「近代」家族論に初めて明確な定式化を与えたバージェスとロック(Burgess,EW.&Locke,H、J、)は、半世紀も前に、伝統社会から近代社会への家族類型の移行を「制度から友愛へ」ととらえていた。「制度的家族」とは、その統一性が法律、慣習、世論、伝統、権威などの外的な社会的諸圧力によってもたらされる家族類型であり、「友愛家族」は、その統一性が家族成員相互の愛情と合意によってもたらされる家族類型である(石川、1998)。恋愛。友愛に基づく配偶者の自由選択、生殖家族の定位家族からの独立、夫婦の平等、意思決定における家族成員の民主的参加などの特性が友愛家族の特性として設定されている。戦後すでに理論化されたにもかかわらず、「友愛家族」の理念的モデルは実現されず、むしろ「性別役割分業」観念に基づく結婚が現実には存続してきた。しかし、シュウォーツの描くビア・マリッジは、まさにバージェスたちの理念化した平等主義的家族を現代のコンテクストに再生したものととれる。
シュウォーツは、結婚が非常にうまくいっている異性カップルに次の3つの共通の特徴があるという。
(1)家事や育児に関してバランスのいい役割分担をしていること。
(2)重要な決定事項にカップルの両者が同等の影響を与えていると信じていること。
(3)両者が家計について平等の裁量がふるえること。
彼らは、お互いの関係を仕事やその他の関係よりもまず第一に考え(primacy)、とても親密な関係(intimacy)を保っている。そしてお互いの関係に対会するコミットメントが重要であり、お互いが「何人によれども代え難し」という気持ちを共有している。さらに彼らはこの関係を保つために、非常にうまくコミュニケーションをはかり、関係を保つための努力を惜しまない。
シュウォーツは、このような関係を築きうる男性や女性が、どのような家庭で育っているかという社会化の背景も研究している。そして、親や家族がどのように協力しあっているか、コミュニケーションをとりあっているかが、子どものその後の結婚スタイルに影響を与えることに言及している。